柿農園を訪れる人々
相方がアロエベラジュースのネットワークを手掛けている関係で、これまでも我が家を訪れる人は多かった。
但し、私たち二人が高齢なので、そのほとんどはネットワーク関係の同年代か幾分若い六、七十代の人たちだった。それも近隣ではなく、東京や埼玉など首都圏から来られるのである。
当地は限界集落といってもいい鄙びた村で、道を通る車さえ日に数台あるかないかぐらいなのだ。だから、車がひっきりなしに出入りしている我が家は目立って、新興宗教でも始めたのではないかという噂がたったぐらいである。
そして、三年前大田原ツーリズム社からの農泊ツアーの小中高生を受け入れるようになり、次いで二年前から宿泊予約サイトに登録してから一般のお客さんも入るようになった。
小中高生はとびきり若い十代の若者だし、一般のお客さんも若い方が多いのだ。これで我が家の来訪者の平均年齢がぐっと下がった。
一般のお客さんは八割方が二十代~四十代の若者である。これは、我が柿農園が鉄道の駅から離れた辺鄙な場所にあることが関係している。
私たちの同年代だと車を運転して来る例はあまりない。JRの電車で来る場合宇都宮線の野崎駅下車でタクシーで30分かかり、料金も約6千円と高いので相方がいつも車で迎えに行っていた。昨年から高齢になったのでもう迎えには行けないと宣言したところ、電車で来訪する人はぐっと減った。どうしても来たいという人は、車の運転が出来る人を頼んで来られるようになった。
車を運転が出来る人が高齢者の場合、我が家にまっすぐ来られずに、道に迷ってしまい、途中まで迎えに行くことがしばしばだった。
しかし、若者は場所が辺鄙であろうがなかろうが関係ないようだ。情報を収集し興味を持ったり、必要性をかんじれば行動するのだろう。そして、こちらで何の説明をしなくとも、スムースに我が家に到着するのである。到着の時間が分かれば迎えに出るのだが、あるときなど気がついて外に出たところ、ちゃんと車庫に車が入っていて、ドアを開けてお客さんが下りられるところだったので、あっけにとられおもわず笑ってしまったぐらいである。
高齢者と若者との違いはどこからくるのか――
私と同年代はまずパソコンができない。携帯もジジババもので、スマホを使いこなす人は少ない。だからネットの使い方など分からないのだ。車にカーナビがついていても、それを使いこなせない人が多いのである。道に迷ってしまう由縁である。
それに比べて、若者はスマホを駆使して、ネットを検索し、常に最新情報を得ている。我が家のような辺鄙な場所でもスマホの道案内アプリで最短の道順を把握し、道に迷うことなくやってくるのである。
さて、我が柿農園では、キャンプ場をオープンし、4月27日に初めてのお客さんが入った。
10連休中に計33組、連泊されたお客さんもいるので、大人子供を含めのべ約160名のお客さんがキャンプ場に宿泊された。ほとんどが二~四十代の若い人で、五十代以上は一割程度か。半数は子供で乳幼児も多かった。車で来るのでキャンプに乳幼児も同伴出来るんだ、と私は初めて知ったおもいだった。
民宿の方も9日間お客さんが入った。三組で計13名のお客さんだった。一組は6泊された。我が柿農園始まって以来の長期宿泊である。のべ人数にすると計43名である。
キャンプと民宿を合わせるとのべ約200名のお客さんが来られたのだから、かなりの賑わいで、私共二人は大忙しだった。食べている暇がなく、きちんと食事がとれなかったせいで、連休最終日お腹が凹んでいるいることに気がついた。体重計に乗ってみると55kgしかない。普段は58~59kgだから3~4kg減ったわけだ。相方もやはり3~4kg瘦せたという。こんなに急に瘦せるのはいけないと、それからはきちんと食べることにしたところ、一週間もしないうちに二人とも元に復した。
200名余のお客さんが入ったというと、皆さん、えーっ、そんなに、と驚かれる。私からしてきちんと数えてみて、そうなることに気づいて驚いたぐらいだから無理からぬことである。
――そんなにお客さんが入って、人を雇わないで二人だけで対応したの?
――それはそうだよ、人なんか雇えない
――それだけの人数を、二人だけでやったなんてスゴいじゃない
言われてみればそうだが、民宿は素泊まりか朝食付きだけだし、キャンプは食事無しだから出来たのである。今後は民宿も素泊まりのみにすることにしたので、食事を作らないで済む。その分楽かもしれない。
200名からのお客さんの対応は初めてのことで、勝手が分からないことが多い分気疲れした。また、動き回るのに余計な力が入ってしまい、体力的にきつかったことは事実である。
――キャンプで出たゴミはどうしたらいいですか
という問い合わせがあった。そのときは気軽に、燃えるゴミ、燃えないゴミ、生ゴミ、の三つに分別して出してください、と言ってしまった。ゴミを持ち帰るのは大変だろうし、面倒だろうとおもったからである。しかし、多くのキャンプ場がゴミは持ち帰りとしているところが多いとお客さんから聞いた。
ネットで調べてみると、ゴミ出し禁止つまりゴミは持ち帰りというところが多いため、キャンパーもいろいろ工夫しているようである。
〇食材は野菜中心で必要最低限にし、なるべくゴミはださない
〇燃えるものは燃やしてしまう、生ゴミは細かく砕いて燃やしてしまう
などなど・・・。
一番お客さんが入った日は9組だったのだが、ゴミが大量に出、一輪車で四回も往復して運ばなければならなかった。キャンプサイトは丘の上なのだから、高齢の身としては坂道の四往復は結構きつい。3~4kgも体重が減った由縁である。今後はゴミ収集は体力的に無理だな、とかんじた。
それにキャンプで出た大量のゴミを集落のゴミ収集所に出すのは気が引ける。この日はゴミ収集所がうちで出したゴミで満杯になってしまったのだ。そのうち苦情が出るかもしれない。
それで、ゴミについてはネット情報を元に、今後は、つぎのようにお願いすることにしたい。
◎燃えるゴミは燃やしてください
◎生ゴミ用バケツを用意しておきますので、ビニル袋などは取り除いて生ゴミのみを入れてください(土の中に埋めます)
◎その他の燃えないゴミはお持ち帰りください
農泊ツアーの学生生徒さんは、東京横浜川崎埼玉などの首都圏だけではなく、大阪広島九州などの小中高生だった。日本だけではなく、アメリカ、台湾、ベトナムから、大学生、日本語学校の学生さんが入ったこともある。国際色豊かといってもいいだろう。
この10連休中には民宿に中国の方が宿泊され、キャンプ場にはマレーシア、韓国の方も入られた。
我が柿農園のホームページは最近外国の方の閲覧も多くなっている。アメリカ、イギリス、フランス、デンマーク、スエーデン、ブラジル、香港、中国、韓国、インド、・・・。
多分宿泊予約サイト「楽天ライフル」を通してbooking.com、それに「Airbnb」に掲載されたからだとおもわれる。2年後に東京オリンピックを控えていることもあり、近い将来これらの国々からもお客さんが入るのかもしれない。
ところで、一二ヶ月前、農林水産省の方から、
――柿農園のホームページを見た、取材をしたいのだが
と電話が入った。了承すると十日後ぐらいに、二人の方が見えた。農林水産省宇都宮支局の職員だという。柿農園でやっている内容を取材して、本省に報告するといい、作っている作物や民宿の様子や年収に至るまで詳しく聞かれた。そして、
――柿を町のブランドとして認定してもらうといいですよ
とか、
――いろいろな補助制度があるので、町に出向いて聞いたり調べたりして、可能な補助があったら利用した方がいいですよ
とアドバイスしてくれたのである。
考えてみると、キャンプはテントサイトを貸すだけで、シャワーも風呂もないから、お客さんは温泉に入り、食材を買ったり、食事処で食事をしたり、土産物を買ったりと、周辺で何らかの消費をするわけで、柿農園として間接的に町に貢献しているし、これからも貢献できるわけである。
柿農園は広く、とても私だけでは手入れが行き届かない。テントサイト北側の楓林の周りは荒れ地となっているのだが、ここを整備出来ればきれいな公園にも花畑にもなりえる。キャンプ場と合わせて素晴らしい観光地となるのではないか、とおもうのである。
そこで、那珂川町役場農林振興課に出向き、三つのことを依頼したり、説明を聞いた。
〇柿を町のブランドとして認定してもらえないか
〇キャンプ場の北側の町道がぬかるむので砂利を敷いてもらえないか
〇キャンプ場の整備や山林の手入れのための補助制度はないのか
柿のブランド化については大量出荷が出来なければ、難しいという。町道に砂利を敷くのは担当が建設課なので、建設課の方で実地を視察の上検討するとのことである。三つ目の補助制度については農林推進課で可能なものがあるかどうか調べて後日知らせてくれることになった。
どれも公的な資金つまり税金を使うのだから、審査制限は厳しいだろうと予測していたが、農林水産省の職員に勧められたと言ったからか、対応してくれた職員は3人だったがどの職員も丁重で丁寧に説明してくれた。
感触としては町道の泥濘に砂利を敷く件が通るかな、とかんじられたがどうなるか。この案件は依頼が多く、順番に処理しているが、すぐにというわけにはいかない、というようなことを言っていた。こちらとしてはすぐにでなくともやってもらえれば「御の字」なのだ。
キャンプ場の整備や山林の手入れは難しいのかもしれないが、キャンプ場が町に貢献していると言っただけでも意味があったとおもうのである。