乾燥芋に色を塗ってる? なんて言われた

 大田原ツーリズム社のツアー客を受け入れを初めて以来、民宿の集客に精魂を傾けてきたが、昨年末から我が家の目標とするものがちょっと変わった感がある。

 というのは農作物の出荷先が決まったからである。

 私がこの地に来て以来、ずっと出荷先を探していたのだが、我が家が那珂川町の外れであることが主な要因で、どこの直売所に行っても地区外として断られてしまった。それが相方が以前一緒に仕事をしたことがある女性がパートをしている直売所に立ち寄ったことがきっかけで、急遽そこに出荷できるようになったのだ。

 ちょうど干し柿があり、乾燥芋を作り始めていたときだったので、それを出してみたのだが、干し柿も乾燥芋も加工食品ということで届が必要だという。すぐに保健所に出向いた。審査か検査があるのかと思ったが、ただ注意事項が記されているパンフレットを渡され、口頭で注意事項を説明されたのと、書類一枚に住所氏名などを書いて提出しただけで済んでしまった。

 干し柿も乾燥芋も出したものは数日で全て売れてしまうことが分かった。大根やカブ、水菜などの葉物なども出してみたが、これらはあまり売れなかったので、当面は乾燥芋と干し柿を主として出荷することに決めたのである。

 出したものは全て売れたので、結構な収入になり、今後の計算がたつことになった。予測不可能な民宿の集客に躍起にならなくともよくなったのである。これは気楽だ。我が農園には4haもの土地があるのだから、本来生業のメインは農業であるべきだったのだ、とおもう。
 出荷し始めて必ずや何かしら問題が出てくるだろうと予測していたが、案の定三つクレームがあった。一つは切り干し大根に干しシイタケを混ぜたものに苦情があった。シイタケ栽培農家かららしい。シイタケを出荷している相方の妹さんから大量のシイタケを頂いたものだった。文句をつけた人は、我が家でシイタケを売ると自分のものに影響する、要するに自分のものが売れなくなる恐れがあると思ったのだろう。直売所側ではその苦情をを受け入れ、今後は混ぜないで、干し大根は干し大根だけで、シイタケはシイタケとして出してください、という。消費者によっては混ぜたものが欲しいという人もいるだろうに、とおもったが、出荷始めて間もないので、おとなしく引き下がることにした。

 もう一つは乾燥芋についてである。我が家では最初350gを300円でだしたのだが、やはり乾燥芋を出している高齢女性が相方に、

――うちは250gを300円にしている、お宅のは安すぎるわ

 と言ったという。うちのがよく売れるので妬んだのだろう。面倒なので、同じ300円はやめにして、以後は500g を500円で出すことにした。これでもよく売れることは続いた。そのうち我が家の乾燥芋がよく売れるわけが分かった。

 直売所のパートの複数のレジの女性が、相方に、

――お宅の乾燥芋を名指しで、買いに来られる方がいるわ

 と言った。

 クレームの極め付きは、相方が乾燥芋を売り場に並べていると、同じ乾燥芋を出荷に来た別の高齢女性に、

――お宅の乾燥芋、色がいいから、色を塗ってだしているんじゃないのかって、皆で言っていたのよ

 と言われたという。

――とんでもない、色なんか塗らないわよ

 言われてみて、改めて並べられている他の乾燥芋と比べてみると、我が家のは透き通るような上品な、いかにも美味しそうな黄色である。他のはそう言っては申し訳がないが、鼠色のや黒味がかったのや、黄色でもくすんだものや、で、我が家のような鮮やかさがないのである。

 我が家の乾燥芋の売れ行きがいいのを妬み心から、色を塗っているのかなどと難癖をつけたのだろうが、名指しに買いにくるというのは色がいいからというよりも美味しいからだろう、とおもう。

 相方はつづけて、

――うちでは無農薬で有機肥料をたっぷり入れて育てているから、色がいいのよ、色を塗るなんてとんでもありません

 すると、くだんの高齢女性は、不思議そうに、

――へえ、肥料なんて入れてるの

――そうよ、油粕、米糠、牛糞、それに木の葉の堆肥もたっぷり入れてるわ

――そうなの、サツマイモ大きくなりすぎるから肥料は入れない方がいいっていわれてるから、うちでは入れないわ

――あら、そう

 相方はなるほど肥料をやらないからその高齢女性の乾燥芋は黒ずんだような色をしているんだと納得したが、それ以上は何も言わずに直売所を後にした。

 私は肥料を入れない方がいいなんて、変なことを言うなあ、とおもい、ネットで調べてみた。

 サツマイモは痩せた土地でも育つという記述はあったが、農林水産省のホームページのサツマイモ栽培の方法を見ると、肥料は化成肥料なら窒素、リン酸、カリの割合が1:10:10のもの、または家畜の堆肥でもいいとあった。要するに肥料をやらない方がいいとはどこにも書いていなかった。

 相方によると、この地域ではサツマイモは痩せた土地の方がいいとか、肥料をやると甘味がなくなってしまう、と昔言われたことがあって、高齢女性はそれが頭にこびりついてしまっているのではないか、という。どうやらそういった風評をいまだに信じている人が多いのかもしれない。

 今の時代は農協で指導を受けるとか、ちょっとネットで調べれば分かることなのに、昔ながらの間違った情報を鵜呑みにして、学習しようとしない人が多いということなのだろう。
 
 そして問題なのが、こういった人のやっかみ妬む心である。

 くだんの高齢女性の、我が家の乾燥芋は色を塗っているんじゃないか、という言葉の裏にあるのは、我が家が乾燥芋に色を塗るという悪事を働いてよく売れるようにしている、ということである。難癖をつけて我が家を貶めようとする下心が透けて見える。

 私はおもう。どうしてこういう人は、

――いい色ですね、そんな色になるのはどんな育て方をしているんですか

 とか、

――おいしそうな色ですね、素晴らしいわ

 と、褒めたり、肯定したりできないのだろうか、と。

 先のシイタケ農家にしてもしかり、

――切り干し大根にシイタケを混ぜればおいしいかもしれないですね
 とか、

――調理の手間が省けていいかも

 という言い方をすればその人の品格が上がるとおもうのだが・・・

 ともあれ、この問題は我が家を名指しで買いに来る人が何人もあったということで、勝負がついたといえるだろう。もし、品質が悪いものだったら名指ししてまで買いにはこないに違いないからである。美味しいからこそよく売れるのだ。適切な肥料を施し、愛情をこめて栽培しているからこそ美味しいサツマイモが育つし、色のよい乾燥芋が作れるのである。

 クレームがあろうがなかろうが、我が家はきちんと会員費を払い会員になったのである。何を言われようが気にせず誇りを持って堂々と出荷しよう、と二人で確認し合ったものだった。

2019年02月12日