スマホを購入して

 私はこれまでスマホ(スマートフォン)を持っていなかった。

 インターネットはパソコンで事足り、電話はあまりかけないので携帯電話は今持っているいわゆるジジババ携帯といわれる旧式の、月額料金1600円のもので十分とおもっていた。

――今の時代はスマホぐらい使いこなせないと、時代に乗り遅れてしまうわ

 そう言って、相方に盛んにすすめられたが、スマホを持たなくとも、パソコンは人並み以上に操作できるのだから、時代に遅れはしない。スマホの月額利用料は安くとも六、七千円と聞いていたので、もったいないと踏み切ることはなかったのだ。

 しかし、必要にかられて最近やっと携帯からスマホに機種変更した。そのときdocomoの担当者に、

――確かに電話はあまり使われていませんね、先月は電話の使用が40円でしたもの

 と、呆れたように言われたものだった。

 必要にかられたというのは、世界展開の二つの民宿の予約仲介サイトに登録したからである。

 今まではるるぶトラベルと楽天トラベルという二つの国内の予約仲介サイトだけだった。この二つのサイトはFAXで予約の通知が入る。

 しかし、最近新たに登録した楽天LIFULLという出来たばかりの会社が立ち上げたVacation STAYという予約仲介サイトと、アメリカの予約仲介サイトAirbnbは予約通知はメールなのである。

 Vacation STAYは自己のサイトだけではなく提携予定の世界展開している外国の六つのサイトに順次自動的に掲載されるという。

 六つ全部に掲載されるには多分半年ぐらいかかるのかもしれない。というのは最初の欧米展開のbooking.comに掲載されるまでに二ヶ月半かかったからである。

 このbooking.comから初予約が入ったのが最近で、そのいきさつを綴ったのが先日発表した「世界展開」である。

 我が柿農園が全部に掲載されたとすると、Vacation STAY自身、booking.comを含めた六つのサイト、それに最近登録のアメリカのAirbnb、合わせて八つのサイトで表示されることになるわけだ。

 どのサイトから予約が入ってもメール通知なので、私は日に何度もパソコンをチェックしていた。

 ことにAirbnbはゲスト(お客さん)からの問い合わせなどに迅速に対応しないと施設の評価が下がってしまうという。だから、予約通知に即応しなければならない。そうおもって、パソコンの前に毎日貼りつくようにしていたのである。

 先日宿泊したお客さんが言うには、パソコンに入ったメールをスマホで確認する方法があるという。

――そうか、スマホを買って、メールをスマホに転送してもらえば、今までみたいにパソコンに貼りついていなくともいいわけだ

 そこで、さっそくネットで調べることにした。すると、メールソフトには他に転送する機能が備わっているとある。私は三つのメールソフトを使っている。Windowsメール、outlook、Mozilla Tunderbird、の三つ。

 一般的に使われているOutlookだと転送の設定方法も載っているではないか。これだと、無料で転送が可能である。しかし、民宿関係は全てMozilla Tunderbirdを使っているのだ。すべての仲介サイトに、ここで使っているメールアドレスを登録してある。変えるとしたら、えらい作業になりそうだ。今更変えることは不可能に近い。

 Mozilla Tunderbirdでも転送は出来るらしいのだが、探しても転送方法が見つからない。尚も検索すると、転送サービスを提供しているプロバイダがあるという記事に出会った。私のパソコンの接続プロバイダはplalaという業者である。すぐにそのサイトを開いてみると、月額217円で転送サービスを提供しているとある。その程度の料金ならたいした負担ではない。これだ!、と私はハッシと膝を叩いた。

 これでスマホ購入が決まった。

 相方に話すと、

――そう、よかったわ、スマホはいろいろな事が出来るから便利よ

 と、喜んでくれた。

 Docomoの担当者が、

――自宅にWi-FIを導入していますか

 という。

――ええ、女房のノートパソコンのために

――どんなタイプのものですか

――どんなって、パソコンのルータに接続してありますが

――ああ、そうですか、それはスマホにも使えますよ

 インターネット接続はWi-Fiを利用、私は電話はほとんどかけないので、最低料金のプランを選べば、月額利用料金は4~6000円に抑えられるという。通信量が1G以内なら4000円、3Gまでなら6000円。ただし、電話は一分ごとに40円加算される。10分だと400円である。私の場合、外出したときの連絡に使うだけだから、10分はかけないとおもう。そもそも私は外出はほとんどしないのだ。

 ということで、最低料金のプランを選び、一般的なスマホよりもやや細長く、画面が少し広い機種を購入した。画面が広いものを選んだのは、Airbnbのゲストとのやり取りを想定してのことである。

 いくらパソコンが出来るといっても、スマホは初心者だから操作は簡単ではない。メールが受信できないので、購入プランの中にある遠隔サポートを受けるべくdocomoのサポートセンターに電話をした。すると、メール受信のためにはdアカウントを登録しなければならない。そのためには四桁のネットワーク番号が必要ですがわかりますか、という。Docomoで渡された書類を見ると、ネットワーク番号は四つの米印になっていて、番号は書かれていない。要するにパスワードだから書類には記載されず、本人に直接提示されるものなのだ。それがわからなければ、どうにもなりません、もう一度docomoの販売店に行って下さいという。

 やむなく次の日、購入したdocomoの販売店に出向いた。

 担当者が私の運転免許証をコピーしたりして、ネットワーク番号の再設定をやってくれた。私は操作が複雑でまだ慣れていないから、メールが受信出来るようにだけは設定して欲しい、と頼んだ。三十才ぐらいとおぼしき若い男の担当者は、あれこれやっていたがなかなか設定出来ないようだった。専門家がなかなか出来ないのだから、スマホを持ったばかりの私には無理だな、とおもいながらその様子を見ていた。

 設定が終わってスマホを渡され、

――家に帰って受信できるかどうか試してください

と言う。

――もし受信できなかったら、またここに来なければならないじゃないですか。私の家は遠いんです。今ここであなたが私宛にメールしてみてください。そうすれば受信設定が出来ているかどうか分かるでしょうよ

 そういうと、担当者はあわてて持っているタブレットを操作した。

 即座に私のスマホの受信トレイに、テストという文字が表示された。やれやれ、二日がかりでやっとメールが可能になったなとつぶやきながら、店を後にした。

 Wi-Fiを使う前提で、一番安い月額利用料のプランを選んだのだが、離れにいるときはいいが母屋に行くと電波が弱いことが分かった。

 ふと、脳裏をかすめたものがある。以前大田原市のシルバー人材センターに登録して勤労者福祉センターに勤めたことがあった。そこの若い所長がパソコン関係に詳しく、安くて優れたホームネットワークの無線ルータがあると教えられて、確か四、五千円だったとおもうが購入したことをおもいだしたのだ。要するにWi-Fiルータである。しかし、接続方法がわからず、ノートパソコンに接続できないまま放置していたのだった。探すと本棚の上にあった。取り出してルータに接続してみると、「強烈パワーアンテナ搭載」とあるだけあって、遠くまで電波が届くようである。

 20mのLANケーブルをネットで取り寄せ、離れのパソコンそばの窓から母屋の二階の窓まで伸ばして、二階の部屋に「強烈パワーアンテナ搭載」Wi-Fiルータを設置した。スマホで確かめてみると、母屋の一階でも電波の状態は「強い」と表示される。これで一気にいろいろなことが解決した。確か四年ぐらい前に買ってあったものだが、今頃になって役に立つなんておもいもしなかったことである。私は勤労者センターの若い所長に、心の中で、ありがとう、と口にして言った。

 これで、私が母屋でもスマホを使えると同時に、希望のお客さんにもWi-Fiを使って貰えるというわけだ。今の若い人はWi-Fiを導入しているかどうかを宿選びの条件にするという。さっそく我が柿農園のサイトにWi-Fi導入済と記載した。

 さて、これまでにも台湾、ベトナム、アメリカ、中国といった外国からのお客さんを受け入れたが、ほとんどの方が日本語ができたので困ることはなかった。しかし、今後は日本語がわからない外国人が来ることも考えられる。全く日本語が理解できない外国人が来たときのために、しょっちゅう宣伝のメールが入る、「ポケトーク」という小型の翻訳機を買おうかと検討していたところだった。しかし、これは3万円近くもする。

 スマホに慣れるためにいろいろ操作しているうちに、「はなして翻訳」というアプリがあることに気がついた。これは十ヵ国ぐらいの言語に対応していて、例えば中国人と対面したとすると、マイクボタンを押して、「こんにちは」というと中国語の「ニイハオ」が漢字で表示され、スピーカーボタンを押すと音声で「ニイハオ」と発音してくれる。同じような操作で逆に中国人に言って貰えば、それを日本語に訳して、発語してくれるという便利なものなのだった。

 対応言語は、英語(アメリカ、イギリス、豪州)、中国語(北京、台湾、広東)、韓国、フランス、ポルトガル、ドイツ、イタリア、スペイン、タイ、インドネシア、とあるので、十分のような気がする。

 使用の際は通信量が増えて通信代が高額になる場合があるので要注意とあるが、Wi-Fiを利用すれば通信料はかからないともあった。我が家では母屋にも離れにもWi-Fiを設置したので安心である。これで「ポケトーク」など買う必要がなくなったわけである。

 ともあれ、プロバイダPlalaのメールの転送サービスの契約を済ましたので、畑仕事で外にいても、スマホをそばに置きさえすれば宿泊予約が入っても、パソコンがある離れまで駆けつけなくとも対応できるようになった。
 

 今更ながらに、スマホに変えてよかったとおもう次第である。

2018年11月22日