ネットショップの開設 

我が家の土地は、約3.5ha(一万五百坪)あるのだが、ほとんどが丘の斜面にある。

丘を登り切ったところは窪地で、1ha程あるのだが、昨年まではそこに足を踏み入れたことがなかった。松や雑木が立っているが篠や蔦に覆われ、とても中に入ることが出来なかったからである。そこは不毛の地でしかなく、私はそこのそばを通るだけだった。

しかし、昨年の二月、ある方の言葉で、そこに入ってみることになった。ある方はこういったのだ。
――あれは何という木ですか その目線をたどると、丘の上の窪地の方角で、松林の上になにやら松とは違う背丈の高い木の枝が頭を出しているのが見える。相方も私もそれが何なのか答えることが出来なかった。

――さあ
次の日、相方が言った。

――思い出したわ。あの窪地は四十年前ぐらいに、植木屋に貸したの。確かマロニエの苗をそだてていたのだけど、でも二十年ほど前、バブルがはじけて売れなくなったからと返されたのよ。それから放置したままだわ。もしかしたら、マロニエの苗が育って、大きくなったのかも知れないわ

怪我をしないようにサングラス、手袋をし、長靴を履き、中に入ってみることにした。茅や篠をかき分けかき分け進むと、五メートルほどで急に視界が開けた。

中は別天地だった。太いもので直径五十センチくらいの灰白色の幹の樹木が林立していた。高さ三十メートル以上はあり、松の木よりは随分高い。遠くからは、松の木の上に頭を出しているかのように見えたわけである。なにやら手足のすらりと長い少女たちが手をしなやかに差しのべて踊りだすかのように、それぞれが枝を青い空に伸ばしている。見上げていると、爽快の感に打たれ、嬉しいという感情がじわっとこみ上げてきた。

――いやあ、これはスゴい 
私はおもわず声を上げてしまった。

――キレイねえ、ここがこんなになってるなんて、今まで想像もしなかったわ 
相方も興奮の面持ちで周りを見回している。
樹木の間は笹が生えているが、埋め尽くすほどではない。これは、周囲の篠や蔦類を退治し、あちこちにある倒木を片付ければ、きれいな森林公園になるな、とふとおもった。あとで分かったことだが、窪地の東側は分厚い篠藪で、そこを越えると急斜面の崖である。

相方はマロニエと言ったが、図鑑で調べてみるとそれはマロニエではなく楓だということが分かった。――そうか、楓ってこんなに美しい樹だったんだ 田畑の仕事、柿園の手入れ、があるので一気にというわけにはいかなかったが、数ヶ月かけて、楓が林立している周囲の篠や灌木、蔦、茅の類いを刈り払い機で刈り、倒木を片付けた。

不毛の地として数十年、ネズミや狐,野鳥しか訪れなかった丘の上の窪地は、劇的に変わって、私名付けるところの「楓遊歩園」となって、ちょっとした憩いの場となっている。

ところで、ネットショップ「竹農園」開設だが、楓林の整備の過程で、東斜面の篠藪の篠があまりにも立派で、資源の有効活用を思い立ったのだ。

周辺で見かける篠藪の篠はせいぜい人の背丈よりもちょっと高いくらいだが、楓林の東側の篠は高さが五メートルはある。この篠も刈り払い機で刈りはじめたのだが、太くて難渋し、十分の一ぐらい刈ったところで挫折した。

相方に聞くと、崖下の隣の地主の先代が一時釣竿を作っていたことがあり、その頃太い篠を植えて育てていたのだという。その篠が増えて、長い年月の間に崖の下から楓林まで這い上ってきたのではないか、という。釣竿にするぐらいだから、太い立派な篠なのだな、と納得した。

ネットで調べてみると、篠とはいっても、矢竹という種類なのだった。矢竹は篠よりも硬質で、昔弓矢に使用されたところからの命名なのだという。以前はあちこちにあったが、今は利用されなくなったからか、あまり見られなくなってしまったと書かれていた。節間が長いことから横笛にも適している。しかし、河原や山間を探してもないし、店にも売っていないといった竹笛愛好家の記事も目にとまった。

それならば、我が土地には推定数千本生えている。お困りの方に役に立てるものならと、ネットショップを立ち上げることにしたのである。

2017年02月01日